いいの・みき 1948年東京都生まれ。江戸友禅絵師。きんさん・ぎんさんの着物を数多く手がける。三越文化センターカルチャーサロン講師も務める。本人のHPは「 ミキカラーズ 」で。
1人で悲しい時
抱いて話しかけ
東京都心にほど近い公園。イチョウの葉のカーペットの上に、江戸友禅絵師の飯野未季さん(63)と愛猫の「タナ」に座ってもらった。「タナは狭いマンションの一室で過ごしています。外へ出すのは久しぶりなんですよ」
飯野さんは、子どもの時から家には必ず犬か猫がいたと話す。父親が動物好きだったので、犬、猫のほか、サル、リス、九官鳥などを飼ったことも。犬はコッカースパニエル、ポインターなど猟犬が多かったという。
「私、2度夜逃げの経験があるんです。十数年前の2度目の夜逃げでは、コインパーキングに止めた車の中で20日ほど過ごしましたけど、やはりビーグルとコッカースパニエルを連れていましたね」
飯野さんによると、夫の会社が倒産して夜逃げした後、シングルマザーにもなり、実家に戻った。父親の経営する会社に勤めていたら、たまたまデパートで江戸友禅の伝統工芸展を見て、勢いで弟子入り。30歳を過ぎてから着物に描く絵の修業に打ち込んだ。そうしているうちに、父親の会社が倒産、また夜逃げ…。「苦しい時、悲しい時、いつも犬や猫に癒やされてきました」
タナは6年前、生後2カ月ほどのところを、弟が千葉県で拾い、飯野さんのところに連れてきた。「拾ったのが七夕だったので、名前もタナになりました」
おとなしい猫で、あまり鳴いたりしない。時には、押し入れに隠れ、いるかいないか分からないことも。
夜、神経を集中させて自宅で着物の絵を描いていると、タナが寄ってきて、絵の上に乗ったり、筆洗いの水を飲んだり、邪魔をする。「いつもは呼んでも来ないのに。来てほしくないときに限って」とイラッときて追い払う。
でも、次の瞬間、「そうね、このへんで休めってことね」と筆を止め、タナに話しかける。「寂しいのね」とタナに手を伸ばすと、さっと消えてしまう。
2人の娘は結婚して家を出て行った。母親に似て猫好き。家に来るときは、必ず自分の猫も連れてくる。タナは人見知りするので、隠れてしまう。
飯野さんは江戸友禅絵師としての活動の傍ら、個人に対しファッションのアドバイスをする仕事も始めた。時にはデパートの買い物に同行したりもする。疲れて帰ると、やはりタナが癒やしてくれる。
タナはどんな存在ですか、と聞くと、「そうね、ぬくもりかしら」という。
「1人の時、悲しい時なんか、抱き締めて話を聞いてもらっています。タナは私の涙をなめてくれているのかもしれません」(文・草間俊介、写真・安江実)





