ペット大好き!情報
喜多條忠さんとてぼにゃん
家族以外の人にはまだ慣れないてぼにゃん。「縫いぐるみさえ怖がるんですよ」と喜多條さん
プロフィール

きたじょう・まこと 作詞家。1947年大阪府生まれ。「神田川」「妹」(かぐや姫)、「やさしい悪魔」(キャンディーズ)、「橋場の渡し」(五木ひろし)など多くのヒット曲を作詞した。

喜多條忠さんとてぼにゃん 猫(オス推定3歳)

いたずら許せば
人は癒やされる

 喜多條忠さんの家には「猫憲法」がある。すなわち「猫は何をやっても許される」。

 「ある日、顔を洗おうと洗面所にいったら、てぼにゃんが流しに上ってウンチをしてました。でもしかるなんてとんでもない。僕や女房が同じことしたら怒られますが、てぼにゃんは別格ですから」

 かくも寛大な喜多條さん。だが、この憲法制定にはわけがある。てぼにゃんは拾ったその日に、「もう長くないでしょう」と獣医師さんに言われたからだった。

 「残りわずかな日々なら、好きなものを食べ、好きなところでウンチくらいさせてやろうと思ったんですよ」

 てぼにゃんは、近所にいた野良猫だった。毎朝散歩で見かけていたが、ある時からみるみるやせてきた。

 「女房が猫好きなんですが、うちはマンションなので、猫にはかわいそうだと思っていた。でもこの猫は助けてやらなきゃと、飼う決心をしました」

 そこで病院に連れていったが、やせこけたてぼにゃんは、わずか2.7キロ。獣医師さんにもう長くないと宣言されたのだ。夫妻は泣きながら連れて帰り、できるだけのことをしようと決めた。

 「食事は飲み放題、食べ放題のバイキング形式。あれこれ並べ、とにかく食べてもらおうと。フードを皿に盛るより自分で袋を食いちぎって食べるほうが好きでした。水もバシャバシャ、ボウルの周りを水浸しにして飲みます」

 最初は1、2メートルしか動けなかったてぼにゃんも、驚異的な回復を見せた。体重は倍の5.6キロになり、バルコニーでセミをつかまえるほどになった。

 「初めて出窓に飛びのったときは、わが事のようにうれしかった。洗面台のウンチも、よくこんな所に上ったなあと、むしろ感心しますよ。女房には猫ばかだと笑われるけど、人間、ある程度の年になったら、猫を許せる人間になりたい。というか、猫のいたずらを許すことで、人は癒やされるんじゃないのかな」

 人の心に染み入る多くの歌を書いてきた喜多條さん。このほど、初めて取り組んだ小説「女房逃ゲレバ猫マデモ」(幻戯書房)を出版した。前妻と別れ、子育てをする作詞家の日々を描いた作品で、1匹の猫が狂言回しのように登場する。作詞家は喜多條さん、そして猫はもちろん、てぼにゃんがモデルだ。

 「僕が慣れない小説と格闘した半年間、てぼにゃんは毎晩仕事部屋の入り口に座り、朝までつきあってくれた。まさに戦友。初小説は、てぼにゃんにささげます」

 (文・宮晶子、写真・石井裕之)