小倉京子の「子育てにも“コツ”ってあるんです」

第15回 『親であること ~トマス・ゴードン博士の考え方』

 今回は、親業訓練を構築したトマス・ゴードン博士(1918-2002)と博士の親に対する考え方についてお話しします。

■トマス・ゴードン博士
写真

 「親業訓練(PET)」は、アメリカの臨床心理学者であるトマス・ゴードン博士が1962年に開発したコミュニケーション・プログラムです。原題は「Parent Effectiveness Training(親としての役割を効果的に果たすための訓練)」であるため、PETと略されます。カウンセリング、学習・発達心理学、教育学など、行動科学の研究成果を基礎につくり上げられたものです。

 ゴードン博士の活動は当初非行少年などの治療が主目的でしたが、子どもが問題行動を起こすのは、親の対応に起因することに気付いたゴードン博士は、親の対応の仕方をトレーニングすることを始め、多くの成果を上げました。これがPETなのです。そしてPETの学びは世界中に広がっているのです。

 この研究成果が認められ、1997年~1999年にはノーベル平和賞に三度ノミネートされていますし、1999年には米国心理学財団からゴールド・アワード賞を受賞しています。

 ゴードン博士が提唱するメソッドは、初めは親子の関係改善のためにつられたものでしたが、どの関係においても効果があることが体験として報告が多く上げられ、今では親子以外、たとえば、職場の同僚間、上司と部下、夫婦、祖父母と孫、友達、教師と生徒・児童、保育士と幼児、医師・看護師と患者、介護施設関係者と介護を受ける側との関係等々、あらゆる人間関係の改善に効果があることが実証されています。

■親であること

 自分の周りにいる大切な人との関係をよくしたいなら、それを実現する方法がある。それを知っているのと知らないのとでは、大きな違いが出てきます。

 親になる時、”親であること”を学んだ人はほとんどいないでしょう。自分が育てられてきたその方法を、なんの疑いもなく自然に自分の子に使っているまでのこと。あるいはなんとなく手探りのまま子育てを続けている。そのうちに、なんだかうまくいかない、どんどん子どもが反抗するようになってきた、でも子育てなんてこんなもの、大変な時期はあっという間に過ぎていくだろう、そんなふうに思っていませんか?

 親子関係は子どもが大人になっても続きます。親子は死ぬまで親子なんですから。子どもが小さなうちも、そして大人になっても、良好な関係でいたいものです。

写真
いつまでも仲良く・・・ね!

 そのためには、

● 子どもが自立していくこと
● 子どもを尊重していること
● 子どもの自尊心を傷つけないように接すること
● 相手も大事、自分も大事、にした関係性であること

が大事になってきます。これらを大事にできる具体的な方法がゴードン博士の提唱する 『能動的な聞き方』 であり、 『わたしメッセージ』 であり、まだこのコラムではご紹介していないですが対立を解く方法 『勝負なし法』 という3つの方法なのです。前者2つについては詳細をこれまでのコラムでお伝えしてきましたので、ここで詳しく書くことは避けますが、ご興味がある方はバックナンバーをご覧ください。

能動的な聞き方・・・・ 第4回 第6回 第11回 のコラム

わたしメッセージ・・・ 第5回 第6回 第7回 第8回 第12回 のコラム

■親も感情をもった生身の人間

 親子関係が良好であるためにベースとなるのは、「立派な親であること」ではありません。親が一人の人間として「人間らしくあること」です。

 ゴードン博士はその著書『親業』(近藤千恵訳、大和書房)の中で次のように言っています。
(注意:文中で出てくる「親業」という言葉は、ゴードン博士の唱えるメソッドのことではなく、子育てそのものを指しています。「親業」を「子育て」と読み替えるとわかりやすいです。)


 人が親になると、おかしな、そして不幸なことが起こる。ひとつの役割を果たそう、役割を演じようとしはじめ、自分も人間であることを忘れてしまうのだ。いよいよ親という神聖な世界に入ったのだから、「親」のマントをかぶらなくてはいけないと思う。そして親はこのように行動すべきだという自分の考えをもとに、ある特定の行動をするように一生懸命努力する。・・・(途中省略)・・・。
 ところがこの変身は、非常に大きな不幸の原因となる。というのは、親はこの変身によって、自分も弱点をもったふつうの人間であり、感情をもった生身の人間であることを忘れてしまうことがあまりにも多いからだ。・・・・・(途中省略)・・・・・そのときどきに感じることがなんであれ、一人の人間として自由に自分を表現することがもはやできなくなってしまう。もう親なのだから、ふつうの人と同じではいけないというわけだ。
 こういう「人変じて親となった」親にとっては、親業の責任の大変な重圧がひとつひとつ試練と感じられる。つねに一貫した感じ方をしなければならない、子供にはいつも思いやりを示さねばならない、無条件に子供を受け入れ、寛大でなければならない、自分の欲求は傍に置いて、子供のためにひとまず抑えねばならない、いつも公平でなければならない、そしてなににもまして、自分の親がした過ちは繰り返してはいけないと考える。
 この底にある気持ちは、よく理解できるし、むしろほめられるべきだが、親業がこれでうまくいくかというと、ふつう、その逆になってしまう。親業をはじめて最初に犯す大きな過ちは、この、自分の人間性を忘れるところにある。親業をうまくやりとげる親は、自分が本当の一人の人間であることをまず自分に許す。一般に子供は、親のなかの人間らしさ、ほんもののところを深く理解し、それを認めるものである。・・・・・(途中省略)・・・・・親業をうまく行うために、人間らしさを捨てる必要はないことをわかっていただきたいと思う。


 親のあり方として、「まず子どもの話に耳を傾けよう」とか「しつけは3歳までに」とか、親の理想像・子育て論が巷に溢れている中、「親らしく」ではなく「人間らしく」あろう、というゴードン博士の考え方は、ある意味目から鱗。

 子どもは、親の役割を演じている親よりも、人間らしい親を信頼するものなのです。なぜなら、「親の役割」を演じるためには自分に嘘をつかなくてはならないですが、「人間らしい」あなたは、あなたそのままであり、嘘がない、真実そのものだからです。

 そして、「親であること」に縛られるのではなく、「親」になった「あなた」の存在をもっと大切にしてもよいのではないでしょうか。ゴードン博士の理論は、その時々の「気持ち」を自分でよく把握し、その「気持ち」を大切にして対応を選択していくこと。「気持ち」を大切にする=「人間らしい」自分を大切にする、ことなのですね。

 「親役」と子どもとの関係ではなく、一人の「親」という「人」と子どもとの関係として親子関係を創りあげていく、そんな考え方。「親役」をやめて「あなた自身」で子どもに接すると、とても楽になりますよ。これは私の体験からも言えることです。

小倉京子(おぐらきょうこ) 親業訓練協会認定インストラクター。自身の育児経験(3児の母)を生かしつつ、「親業」のスキルをベースに、あたたかい親子関係をつくっていくポイントをわかりやすくお伝えしていきます。 ブログ:http://ameblo.jp/hotto-mama/ HP:http://instructorkyokoogu.wix.com/peaceful-commu ご感想・ご質問:instructor_kyoko_ogura★oyagyo.or.jpまで。(★を@に変えて送信してください) http://ameblo.jp/hotto-mama/ http://instructorkyokoogu.wix.com/peaceful-commu

(2016年04月08日)