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神野三枝の「誰ともかぶらない大人のおもてなし」
神野三枝の「誰ともかぶらない大人のおもてなし」

第2回 『千古乃岩酒造(ちごのいわしゅぞう)の真心』

 あれは、知人の息子さんの就職が決まり、仲間でお祝い会の楽しい時間を過ごしていた時でした。父親である知人が、最高に幸せだったのでしょう・・・。大事に保管していらした日本酒を、この席で開けたいと、持っていらしたのです。  驚いたことに、その日本酒のラベルに知人のお店の屋号と名前の印が記されていたのです。
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 世の中に、こんな粋な計らいをしてくれる酒造メーカーがあるなんて。
私は、居ても立ってもいられず、すぐにその酒蔵を訪れたのでありました・・・。  岐阜県土岐市駄知町、美しい山々を抜けると、ひっそりと佇む酒蔵、千古乃岩酒造(ちごのいわしゅぞう)。
出迎えてくださったのは3代目店主の中島善二(なかしまぜんじ)さん。間もなく古希を迎えられるというにはあまりにも肌艶の佳麗な紳士。
 
3代目中島善二さん
3代目中島善二さん
 明治42年、善二さんの祖父 初代善三郎(ぜんさぶろう)氏がここ駄知の地に尾張屋商店を創業。昭和28年に社名を千古乃岩酒造と改め、父親重美(しげみ)氏が2代目を受け継いだものの、47歳で他界。当時善二さんは若干10歳。善二さんが3代目を引き継ぐまでには、祖父母と母の苦労なくしては今の千古乃岩はなかったそうです。東京農業大学で醸造の研究に取り組み、その後商社で経営を徹底的に学び、ようやくにして3代目就任。現在創業106年を誇る老舗酒造メーカーの暖簾を、息子である4代目社長大蔵(たいぞう)さんと守っておられます。
 
酒を絞る4代目大蔵さんと酒蔵の様子
酒を絞る4代目大蔵さんと酒蔵の様子
 酒蔵には太陽光は必要がなく、窓は温度調節のために風を入れるためだけの役割、その薄暗い中、歴代数々受賞された賞状が飾られ、歴史の重みとご苦労が偲ばれます。  私は尋ねました。本当に美味しいお酒とは何ですか?善二さんは迷うことなく即答されました。
「世の中には美味しいけれど、飲んでいるうちに飽きてくるお酒が多くあります。また料理の邪魔をするお酒もあります。本当に美味しいお酒とは、スルスルスルスルと、いつまでも飲み続けられるお酒です」
 
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 善二さんは言われます。 「酒は人の性格とよく似ていて、人間若いうちは角があり、人生を重ねると大らかにまろやかになります。酒造りも同じで、今の自分や、自分の人生が丸出しになるから怖いのです。わかる人には自分という人間が全部バレてします」  私は切り出しました。お客様だけの特別なラベルを作られるようになったきっかけは何だったのですか?  「20年前、ご友人にお祝いのお酒を振る舞いたいというお客様がおいでになられました。お話を聞き、その方のお心に応えたいという思いで、そのお客様のためだけのラベルを作ったのがきっかけでした」  このラベルがお酒を送られるお客様のおもてなしの気持ちの代弁の役割を担っています。自社のオリジナルラベルを貼らず、贈り手と先様、両方のお客様を引き立てておられるこの配慮こそが、老舗 千古乃岩酒造の真のおもてなしだと痛感しました。今の日本に失われつつある「真心の真髄」がここには息づいています。  3代目店主善二さんは言われます。
「おもてなしとは、決して自分の思いを押し付けることなく、わきまえの心算(こころづもり)を持つことが大切だと、そう心に言い聞かせております」

(2015年04月20日)

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