神野三枝 タレント
~お知らせ~ 「何度も何度も読みました。そして胸が苦しくなり、涙が止まりませんでした」「私にとって人生の教科書」・・・08年3月から3年にわたり連載、多くの反響を呼んだ神野三枝さんのコラム『礼状』に、新たに書き下ろしの文章を加えた自叙伝『母への礼状』が発売されました。 お問い合わせは風媒社(052-331-0008)まで。 http://www.fubaisha.com/

第38回『韓国の旅(23)JUMP!圧巻』

私たちは10年前、1つのドラマの日本上陸によって、韓国に素晴らしいエンターテイメントの世界があることを知りました。しかしそれは、ほんのごく一部の文化の一角に過ぎないことを、当時は知る由もなく、その後、今日に至るまで、10年と言う長い年月をかけ、水面に広がる波紋のごとく、韓国エンタメの幅の広さと、クオリティーの高さを知ることになったのです・・・。

私は海外に行くと、その国や街の文化に触れようと、常設のエンターテイメントシアターに出掛けます。現地に入って、その場でチケットを買って、見ることの出来る質の高い芸術。期間限定のコンサートや、舞台ではなく、そこに行けば必ず見ることの出来る、常設の劇場を持ち得たエンターテイメントです。そこでふと考えると、日本には、劇団四季や宝塚以外に、常設シアターで365日エンターテイメントショーを見せてくれる劇場があるのか?疑問に思いました。AKBグループは常設小屋を持っていると言っても、観光に来た外国人が簡単にチケットを入手できるものではないし、少し前東京に出来たという劇場も日本と言うより、K-POPだったりするし、有名な太鼓集団がいると言っても、かなり辺鄙な場所を拠点に活動していたりする。ん~、この作品1本で、365日観客を満員にできるエンターテイメント・・・、思いつきません。


ところが、韓国にはそのような常設シアターでハイクォリティーのエンターテイメントを見せてくれる集団が複数存在します。代表的なものと言えば、1997年初演、台所に見立てた舞台で、韓国の伝統的音楽であるサムルノリのリズムを、コミカルにキッチン用品で奏で、セリフを使わずストーリーを展開していく「NANTA(ナンタ)」。このタビコラの第28回でもご紹介しました、2010年誕生、芸術をエンターテイメントショーに見事に変貌させた、新しいスタイルのパフォーマンス「アクションドローイング HERO(ヒーロー)」など。なかでも、世界を拠点に脚光を浴びているノンバーバルパフォーマンス(言語を必要としないパフォーマンス)「JUMP(ジャンプ)」は、絶大なる人気で、2003年の設立から11年、押しも押されもせぬ韓国トップクラスエンターテイメントとして君臨しています。伝統武術を余すところなく取り入れた高難度のアクロバットをコミカルなストーリーに組み込んだ90分間。今回のタビコラは、そのJUMPの2014・名古屋公演の模様をご紹介いたします。


そもそもJUMPとは・・・
その始まりは、2002年にソウルの国立劇場で初公演された「変わった家族」というタイトルの舞台でした。その後、何度も構成に手を加え、幾度も修正を重ねた末、2003年から「JUMP」として公演を始めることに。初演以降は、連日チケットが完売になるほど人気を博し、ついには海外でも遠征公演を敢行。2005年2006年には、イギリスのエディンバラフリンジフェスティバル(1947年から始まった、複数の芸術と文化の祭典)で、2年連続でチケット売上げ1位に輝く偉業を成し遂げました。そしてロング・ラン公演のためのJUMP専用劇場を2006年にオープンさせ、2008年には公演3000回を記録するという、公演内容と同じく、スピード感あふれるエネルギーで、韓国エンターテイメント界のトップに上り詰めてきた集団です。


長い年月をかけ完成させた作品で、俳優たちは演技に猛けた、武術有段者が選ばれました。そして選ばれた俳優陣は国家代表の体操選手の協力を得てトレーニングを重ね、完璧なまでの舞台芸術としての武術アクロバットを完成させたのです。上演回数1万回、観客動員数400万人を超える韓国最強パフォーマンス集団、それがJUMPです。


その内容は?と言いますと・・・
各国の武術の総決算と言うのがわかりやすいかと思いますが、韓国のテコンドー、鉄拳、日本の空手、合気道、中国の酔拳など、韓国の伝統武道と東洋の武術を合体させた武術を余すところなく取り入れた上で、コメディー要素満載のストーリーを繰り広げていく演劇パフォーマンスです。高度なアクロバットが織りなす、躍動感あふれる衝撃の演出!家族という舞台構成で表現する物語は奇想天外、鍛え抜かれた人間だけが表現できる、身体の躍動性を最大限に魅せつけられると共に、その身体能力の驚きに相反するストーリーの面白さ、息つく暇なく展開される爆笑エンターテイメントです。


それでは、2014・名古屋公演の模様をご覧いただきましょう~
(2014年4月18日 名鉄ホールにて)


まだお客さんが入場している最中に、あらあら~老人が客席に登場しましたよ。
老人は、手にドラゴンズのうちわを持ち、どこへ行くともなしに、ウロウロ~ウロウロ~しています。その姿に気付くお客さんもいれば、全く気が付かないお客さんもいます。どうやら老人は、足が衰えているようで、杖を突いて歩いていますが・・・、あらら、歩き疲れたようで、体格の良いお客さんを見つけ、「おんぶをしてくれ」とジェスチャーでアピールしています。
散々おんぶしてもらったまま会場を歩かせているものですから、さすがにその異様な空気に観客も皆気付き、気が付けば開演前から観客が一体となった空気感。
注目を集めたまま、老人はステージへ

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この観客を巻き込むあたりの演出は、大道芸の要素を感じる面白さです。
そして老人がたった一言発した言葉は・・・
「JUMP(ジャンプ)GO(ゴー)!」
いよいよ開幕です。


ステージには、家族が登場してきました。
頑固そうなおじいちゃんに、世話好きなお父さん、肝っ玉お母さん、年頃の娘に、あらあら頬を赤らめ酔っ払った酒好きなおじさんまで、5人家族。
どうやら武道に秀でた大家族のようです。

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ストーリーはこの武道一家のところに、おじいちゃんが孫娘の婿候補を家に招いたとこからスタートします。
今日は、その青年が我が家にやってくる日。家族は大掃除の真っ最中!なのに酒好きのおじさんは酔っ払い、裸になって、もう手が付けられません。

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おじいちゃんは青年と孫娘を結婚させようと考え、当の二人も、お互い気に入っている様子。しかし、家族は彼がこの家に相応しいかテストすることに・・・。
客人を含め6人になった家族の心模様を、武道で表現する技の数々・・・

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途中、観客をステージに上げるサービスも。

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さて、その婿候補の青年、
一見、眼鏡をかけた気弱そうな好青年に見えるのですが・・・

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ひとたび、丸メガネをはずすと、驚きの秘密が!ここは見てのお楽しみ。
娘と青年は魅かれ合ってゆくのですが・・・

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そんな中、どこか間抜けな2人の泥棒がまさかの侵入!

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戦う家族

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やっつける家族

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ここからは、さらにアクロバットの大見せ場!

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果たして、最後はどんな結末が待ち構えているのでしょう~。

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観客にとっては、あっという間の90分。しかし俳優陣にとっては、出ずっぱり、アクロバットしっぱなしの90分です。想像を超える身体能力を備えていないと、決してこなせない演目です。超人技という言葉にふさわしい俳優陣の見事な武術だけでなく、そのコミカルな演技力も見ものです。


公演後はJUMP恒例のサイン会。
今、舞台に立っていた俳優陣がロビーに登場して、サイン会をしてくれるのもJUMPの魅力です。

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キャストは皆、映画や舞台、ミュージカル、ドラマ、テレビ、コマーシャル、メディアで活躍する精鋭ぞろい。そしてその経歴には、テコンドー審判資格や師範資格、体操国内トップ成績を持つなど、輝かしい経歴ぞろい。


これだけのメンバーで、考えつくされた構成を組んだこの作品が韓国国内に止まっているはずもなく、スペイン、マレーシア、ドバイ、ギリシャ、イギリス、マカオ、香港、中国、ラオス他、世界各国に呼ばれ、成功を収めています。


さて、公演を終えられたキャストのお一人、
JO HUNYOUNG ジョ・フンヨンさんにお話をお伺いしました。


彼の役どころは、一家に訪れた婿候補の青年です。

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現在、30歳のフンヨンさん。彼は自己紹介をしてくださるとき、私のノートに、綺麗なカタカナで、お名前を書いてくださり、「よろしくお願いします」と言われました。聞けば日本語を勉強されているようで、会話だけでなく、文字もかなり習得されています。私が、彼に魅かれたのは、他の出演者は主役となる家族の一員であり、存在しているだけでキャラクターの意味が歴然としているのに対して、彼の役は、パッと見おとなしく、それでいて、ある秘密を持っているという演技力が人一倍必要な役なのに、見事にその2つの顔を使い分けていたところに唸らされました。さらにはアクロバットシーンでの、その技の美しさに、バラエティーとは一線を画す完璧なまでの技術力に、目が離せなかった点です。


そのフンヨンさんがなぜこの舞台に立つまでになったのか?
その人としての歴史に興味がわいてこないはずがありません。


彼は子供の頃、ブルースリーに憧れて、そのビデオをみて、毎日「アチョー」と真似をしていたそうです。当然彼にとってブルースリーはリアルタイムの人ではなく、外国のアクションスーパースターという存在でした。
来る日も来る日も「アチョー、アチョー」とキメポーズをとっていたフンヨン少年は、自分も強くなりたい、カッコ良くなりたいと、幼少のころから、テコンドー、カンフー、柔道などさまざまな武術を習い、身に付けたのです。
その技術を生かし、JUMPに入る前は、映画やドラマのアクションシーンのスタントマンとして活躍をされていました。
そして彼の気持ちにはアクションだけでなく、俳優としての欲も芽生え、いつしか、演技力も、アクション技術力も兼ね備えた、オールマイティーな役者になることを生きる道としたのです。


彼に聞きました。あなたの職業はなんですか?フンヨンは迷わず言いました。
「俳優です」


私には、この答えが意外でした。
私は彼が、アクションスターと答えると思ったからです。
JUMPの舞台はアクションスターがキャスティングされていると思っていた私でしたが、出演者はアクションも最高レベルで表現できる俳優だという意識で、舞台に立っていたのです。


そこで彼に質問してみました。好きな俳優は誰ですか?
「チャ・スンウォンさんです」
なるほど・・・。私の中に、彼の目指す方向性が見えたような気がしました。
チャ・スンウォンさんと言えば、このタビコラでもご紹介したことがありますが、私の好きな役者さんの3本の指に入る人です。もともと韓国を代表するモデルであり、そのワイルドな容姿から役者としても存在感を植え付け、近年では2011年にMBC『最高の愛~恋はドゥグンドゥグン』で最優秀男優賞を受賞。代表作には2010年 SBS 『アテナ 戦争の女神』、2009年 MBC 『シティーホール』、舞台では2012年日韓両国で公演された『ぼくに炎の戦車を』でSMAPの草彅剛さん広末涼子さん香川照之さんと共演。私も東京公演を見に行きましたが、彼の役は韓国の男寺党(ナムサダン・放浪芸の集団)の演者で、舞台上に渡された綱の上に立ち綱渡りをするというシーンがありました。練習に明け暮れ、見事に綱を渡ってみせたチャ・スンウォンさんに役者魂を見た事を覚えています。
アクションシーンの見事なカッコよさは、アテナで証明している韓流スターです。
チャ・スンウォンさんはフンヨンがこの先目指す、具体的な方向指示器という事でしょう。
日本の俳優では小栗旬さんが大好きというフンヨンは、映画にも出演し、2011年 映画『エイリアン・ビキニの侵略』で北海道夕張市で開催された、「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2011」にてオフシアター・コンペティション部門のグランプリを受賞しています。

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そんなフンヨンがあえてJUMPに魅かれる魅力とは・・・
「セリフが無いから、世界中の人が見ても良くわかるところです。
様々な東洋的な武術とアクロバット、西洋的なコメディーが溢れた構成が魅力です。その中でも一番の魅力は・・・僕です(笑)」とおどけて見せる彼。


そんな彼が世界を回って絶賛の拍手を貰っている中で、一度だけドキリとしたことがあったそうです。それは海外公演での事。
観客が難しい顔をして、睨むように見ていたそうで、彼らはひょっとして面白くないのか?と不安になったそうなんです。ところが最後の最後、これでもかと言うほどの拍手が鳴り止まず、この時ほど怖さが喜びに変わったことはなかったそうです。彼らの演技を見れば、確かにその見事さから、笑いよりも驚きを表情に出してしまう国の人々もいらっしゃることでしょう。嬉しいエピソードです。


ストーリーの中でフンヨンさん自身の好きなシーンをお聞きすると、彼は
「一家の娘とのラブシーンと、二面性を持つ僕が別人に変化するシーンです。」と答えました。

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確実にJUMPのこの作品は、アクロバットだけを見せる作品ではない事を、暗示した回答でした。


彼はそう言い残すと、スタッフに連れられて、アイシングに入りました。
アイシングとは、酷使した体をクールダウンさせて、痛みが出ないようにする治療の事です。インタビューの様子を時折心配してみていたスタッフの方の、演者への愛情と責任を背に、快く応じてくださったフンヨンさんにサービス精神と、優しさを感じる取材でした。

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JUMPの専用劇場は、地下鉄5号線西大門(ソデムン)駅5番出口から徒歩5分、ソウル特別市中区(チュング)貞洞(チョンドン)22 京郷アートヒル1Fにあります。 
ソウルにお出かけの際は、ぜひ一度ご覧ください。
その驚きのエンターテイメントに感動されることでしょう。


次回も、ロケ地盛りだくさんのタビコラを、どうぞご期待ください。


つづく




追記:タビコラに出てくる情報的な内容は、すべて旅行当時の状況ですので、現時点と違いがある場合があると思われます。あらかじめ、ご了承ください。
旅行ガイドとして捉えて頂くより、読みもの、コラムとして受け止めていただけますと幸いです。神野三枝




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●『エイリアン・ビキニの侵略』DVD発売中
発売・販売元:キングレコード
価格:3,800円+消費税





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コメント

けいちゃん: 2014年5月25日 10:43

映画と違い、毎回同じクオリティを保って公演する舞台は、パフォーマーさんにとって想像を超える過酷な環境だと思います。
気力・体力を維持し続けるその努力が、一期一会の観客に、一生忘れられない感動を与えるのですね。

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