神野三枝 タレント
~お知らせ~ 「何度も何度も読みました。そして胸が苦しくなり、涙が止まりませんでした」「私にとって人生の教科書」・・・08年3月から3年にわたり連載、多くの反響を呼んだ神野三枝さんのコラム『礼状』に、新たに書き下ろしの文章を加えた自叙伝『母への礼状』が発売されました。 お問い合わせは風媒社(052-331-0008)まで。 http://www.fubaisha.com/

第21回 『レモンスカッシュ』

20091207jinno_01.jpg 生きていくのに最低限の身の回りの物だけを残し、あとの家財道具はすべて処分しました。
 商売の残務整理も、やり終えました。
 あとは、引越しの日を迎えるばかりになりました。

 しかし、、私には、もう一つ、やり残してはいけない事がありました...。

 それは、親友に、私がこの街から出て行くことを、告げる事でした。

 私は、この時点まで、自分の家の事情を、一切、誰にも話していませんでした。
 幸い、高校は卒業しており、区切りの良い時期だったので、我が家の事は、学校に報告する必要もなく、もう春休みに入っており、友人に会う事もなかったので、私がこんな状況である事は、誰にも知られていなかったのです。
 いや、知られたくない、と言った方が、正しい表現かも知れません。

 「私は、人生を変える」

 そう思っていましたので、家財道具同様、交友関係も断ち切って、すべてゼロからの新しい生活を始める覚悟でいました。

 すると母が言いました。

 「私たちは、過去を捨てて、生まれ変わるの。
 だけど、あなたにとって、生涯の友として、何があっても一生付き合っていきたいと思うお友達だけには、きちんと事情を話して、別れを言っていらっしゃい。
 永遠の別れではなく、生活が落ち着くまでの、少しのお別れ。
 これまでの感謝と、この先もお付き合いさせて欲しい気持ちを伝えていらっしゃい。
 あとの人なんかは、どうでもいいの。何も言う必要はないわ。
 人は、新しい自分を始めるためには、断ち切らなければいけない関係もあるの。
 要は、あなたが、何を捨てて、何を大事に残すか。
 それは、あなたの考え方で良いの。あなたの人生なんだから...。
 自分自身と向き合って、よ~く考えてみなさい」

 生涯の友。。。

 私の頭には、すぐに3人の親友の顔が浮かびました。
 というか、3人の事は引越しを決めてから、ずっと気がかりでしかたなかったのが本当のところです。
 仲が良いからこそ、格好の悪い自分は見せたくない。軽蔑されたらどうしよう。
 そんな気持ちが先走り、自分の事情を告白する勇気よりも、怖さの方が勝って(まさって)いたのです。

 母は言いました。
 「それで、離れてしまう友人なら、それまでよ。
 これは、あなたにとって、1つの試練だと受け止めなさい。
 あなたが、そのお友達とこれまでどんな関係だったのか?あなたのしてきた事が、そっくりそのまま答えとなって、返ってくるから。
 このまま何も告げずに別れたら、あなたはひょっとして、友人というかけがえのない財産を、自ら手放すことにもなりかねないわよ。
 当たって砕けろって言うでしょ。あなたは、砕けるしか結果の見えない友人関係をしてきたと思っているの?
 少なくとも、この先の事はその時の結果として、これまでの感謝は伝えてきなさい。
 それが、人の道ってものです」

 3人は高校の同級生で、私も含めて、仲良し4人組でした。
 4人はいつも一緒でした。
 生まれて初めてコンサートに行ったのも、生まれて初めて子供だけで旅行へ行ったのも、生まれて初めてを、4人で一杯しました。
 一人がいじめに合うと3人が盾になって守り、不良にも立ち向かったこともあります。(笑い)
 一緒に、大人への階段を登ってきた、親友です。
 その中の一人は、以前ご紹介した、私が父の自殺を見張るために、夏休みの宿題が1ページもできなかった時、理由も聞かずに答えを全部教えてくれた『ようちゃん』です。
 ようちゃんは、後に、この出来事のすべてを私が告白するまで、一切誰にも口外せず、一切私に何も聞かずにいてくれた恩人です。私にとって人生最初の恩人です。
 あとの2人も、ようちゃん同様、大事な大親友です。
 失いたくない...。
 私は公衆電話から3人に電話をかけました。
 「大事な話があるんだけど、集まってもらえないかな...」

 今でも、その時の光景を、鮮明に覚えています。
 喫茶シャルダン。
 私はガラス越しの、陽の当たる明るい席を選びました。
 暗い話をするのに、暗い場所では空気が重くて、切り出せないと思ったからです。
 4人は、レモンスカッシュを注文しました。

 「卒業してから何してた~?」など世間話はありませんでした。
 私が呼び出した時点で、3人はそれぞれに何かを感じていてくれていたのか、私に対してこれまでにない緊張を持って、真剣に向き合ってくれました。
 その姿勢が、私に話しやすい空気を作ってくれました。

 私は運ばれてきたレモンスカッシュをストローで吸い上げると、ゴクリと喉を鳴らして、覚悟を決めました。

 「実は、、、うち、、商売を畳む事になったの...」

 すると、ビックリした3人も、ゴクリと喉を鳴らしてレモンスカッシュを飲み込みました。

 「えっ?」

 その様子は、今聞かされた、信じがたい話を、無理矢理、呑み込むように見えました。

 それから私は、私が生まれる前の父と母の結婚の話から、今日までの全部の話をしました。長い長い時間でした。

 3人は、その間、一言も私の話に口を挟まず、真剣に聞いてくれました。
 そして、すべてを話し終えると、一人がボソっと言いました。

 「実は、、、うちも、お父さんとお母さんが仲が悪くて、ずっと前から、離婚をするって言ってるの...」

 すると、もう一人が、
「うちは、おばあさんとお母さんの仲が悪くて、いつもお母さんが泣いていて、辛い...」

 すると、もう一人も、
「実はうちも、、、お金に困っていて、その事で親はいつも喧嘩してるの。辛い...」

 4人は、
「な~んだ。みんな言わないだけで、それぞれの家庭でいろいろあるんだね」と、涙をこぼして、笑い合いました。
 それは、可笑しくて笑うのとは違う、自分だけじゃないんだ、というホッとした気持ちからこぼれた笑いでした。

 大人の事情で子供たちは、多かれ少なかれ小さな胸を痛めて、皆、生きているのです。
 でも、家族だから、受け止めるより仕方ないのです。

 あの時、3人が、私を軽蔑したり、離れて行ってしまっていたら、私は、新しい生き方に"辛い"を背負って(しょって)歩き始めなければいけなかったでしょう...。
 でも、あの、笑いあった温もりの涙は、その後の私に、前向きに生きる勇気を与えてくれました。
 シャルダンでの出来事は、私の人生で、忘れられない貴重な分岐点になりました。
 ありがとう...。
 私は、親友たちに心を支えられて、この街を出て行く事になりました。

 「お互い、元気でね!
 何があっても、私たちは変わらないから!
 みんな落ち着いたら、また会おうね!」

 人間、生まれ変わるためには、捨てなきゃいけない覚悟を持たなくてはなりません。何を捨てて、何を拾うか。それは、自分の考え方次第です。
 勇気には、2種類あります。
 守りたいものの為に、何かを手放す勇気と、守り続けたいものに必死になる勇気。

 私は、3人の親友との関係を守り続けたい為に、後者の勇気を出しました。

 今回の事で学んだ事は...、

 『いらないものは、いらない。
 いるものは、いる。
 いるものでも、無くなる時もある。
 でも一番つまらないのは、どうでもいい、という意志薄弱』

 3人に会うまでの不安が嘘のように、帰りは晴れやかな気分でした。
 まだ風が少し冷たい3月、頬をすり抜ける風が、心地良く感じられた事を覚えています。

 私は、胸を張って、歩き始めました。

 さあ、いよいよ、引越しです!
神野三枝 プロフィール
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コメント

高校の同級生のようちゃん: 2009年12月 7日 11:09

愛くるしい笑顔とユーモアあふれるキャラクターで、先生や同級生、後輩等、誰からも愛されていた三枝ちゃん!私の方こそ、数々の人生の危機を三枝ちゃんに助けてもらい、三枝ちゃんのおかげで、今日の自分があると言っても過言ではありません。想像を絶する環境にありながら、それを自分の中に秘めて、周りの人を幸せにしてくれた三枝ちゃん!そんな素晴らしい三枝ちゃんを育てられたお母様にも感謝しています。本当にありがとうございます。

ぼるぱぴ: 2009年12月 7日 11:30

人間って、皆なにかしら悩みを背負って生きているんですよね。
苦しい時は『なんで自分だけが・・』って思い込んでしまいがちだけど、
そうじゃないんですよね。

お母様は、神野さんにとって母であると同時に『人生の師匠』ですね(*'-')
何事にも前向きで明るいお母様の教えが、今の明るい神野さんを作ったんだと思います♪(〃^∇^)o彡☆

私も今、神野さんのコラムに『前向きに進め!』と、教えてもらっています^^
感謝感謝!ですよ ありがとうございます。

バンバン爺: 2009年12月 7日 12:12

高校時代の親友って本当に素晴らしいですよね。私も7人の仲間で各々進む道は違っても、毎年旅行をして旧交を温めていました。その後出来た友人は矢張り表面上の付き合いですね。その仲間も既に4人あの世に旅立ちましたが、残りの3人で敬老会を偶に開いています。お母さんの助言によって親友に打ち明けたのは大正解でしたね。

はじめましてのはじめちゃん: 2009年12月 7日 13:09

犬はどこへ行ってまったんかねえ。今回もええ話で涙がでたけどちょっと知りたかったもんでまた教えてちょうだゃあね。

赤い皇帝: 2009年12月 7日 13:48

僕は、生まれつき障害があったため、養護学校に通っていました。その時の級友は、筋ジスという病気のため全員天国に旅立っています。今回の趣旨から外れるかも知れませんが、高校時代の友人とは今でもつながっているような気がします。そして、天国での再開が今から楽しみな、守りたい友情です。

バードちゃん: 2009年12月 7日 14:35

ようちゃん! 登場しましたね~!
逆境の中にいる時こそ、親友との絆が生きる力になってくれるんですよね。その後も二人は助けたり助けられたりの素敵な関係で続いてこられたんですね。こえからもずっと...。
私も生きていく上で、切らなければならなかった人間関係(肉親も含む)や友人もありましたが、よくよく考えればそういう人たちは元々深い結びつきがなかったのだと今になれば納得です。

てり: 2009年12月 7日 14:53

やはり、親友の存在と言うのは、ありがたい・財産のような存在です。
自分自身をさらけ出す事ができる相手は、そんなにいないものですし、増してや「親の失態・傲慢さ・愚かさ」なんかは、なかなか言えないものです。
お母さんは、そう言った事をわかっていたのでしょう。
「親から子に伝える事の一つ」と思いましたね・・。

奇跡の復活: 2009年12月 7日 18:57

お金では決して手に入れることが出来ないのは人との繋がりです。家族やパートナー、そして親友など。気持ちは必ず伝わります。まずは話をすること。今回も素敵なエピソード、ありがとうございます。

季節はずれのサンタクロース: 2009年12月 8日 00:16

今回は大泣きです。私が人生ドン底だと勘違いしていた10数年前、私から離れていかず、常に声をかけてくれた友を思い出し、涙をこらえながら読み終えた時、コメントの一番最初に、目に入った「高校の同級生のようちゃん」の文字・・・一気に溢れてしまいました。 もうたまんねぇよ三枝さん!
今回も感謝感謝、ありがとうございます。

三好のてるくん: 2009年12月 8日 03:10

やはり、大人の階段を一緒に登った友は、一生の友ですね
ようちゃんのカキコにウルッと来ました。
僕の1回目の離婚は、洋服とゴルフ道具と釣り道具だけ持って家を出ました、そして2年後には、そこに新しい旦那が入り、そのままその場所で、今でも暮らしてます。僕の母親がいる実家から500メートルの場所です。
小4、小3だった子供達は、今28、27歳です。
色々ありますが、全てを知ってるのは高校時代からの親友だけです。
今回も勇気をありがとうございましたm(__)m

たっちょん: 2009年12月 8日 14:07

三枝ちゃんや皆さんと違い、私は高校時代の友人と今では年賀状のやりとりだけになっています。淋しい事ですね。でも今は職場で心から信頼できる友人に巡りあう事ができました。
今回も勇気とパワーをいっぱい頂きました。
年末・年始とお忙しいかと思いますが、お身体に気をつけて頑張って下さい。

モモチャン: 2009年12月 8日 15:56

友達&仲間私も60才過ぎてpcで仲間が大勢出来・・同級生 会社の仲間 今は趣味の仲間と大勢で楽しく人生を楽しんで居ます。パッチワーク&エコクラフトバック&今は無患子(ムクロジ)の木の実を使いストラップ造りに挑戦~~人生何事にもプラス思考で前進 是からもお互いに支え合い・・

パンドラ・スポックス: 2009年12月 8日 23:44

ジャイアンじゃないですが『心の友』ってやはり大きな支えになります。
私にも年に1、2回は都合をつけ 会う友達がいます。が 多感な時期を共有したことも
あってか、心情を察しながら、深く追求せず、でもわかり合える繋がりを
持っています。
今はそれぞれの家庭や家族を大事にしている時ですが
だからと言って 友情は絶えるものでは ないんですよね。
真の友達を持つという事に感動と共感をし 今回初めて
コメントさせて頂きました。

敏@姫愛ぱぱ: 2009年12月 9日 19:12

ラジオで聞いてて知ってたんですが、中々見れなくて今日やっと見ました。
最初から今回のまで全部読んだんですが、壮絶な人生ですね・・・
読んでて涙が出てきましたよ!!
俺も負けないで頑張っていきたいとおもいます!
これからも楽しみにしてます!

けいちゃん: 2009年12月11日 18:58

三枝ちゃんが親友たちに助けられたのは、それだけの人間関係をちゃんと築いてきたってことだと思います。
今でもたくさんの人と新しく出会い、新しいつきあいの輪も広がっていますが、箸が転げても可笑しい年頃を一緒に過ごした仲間は特別なものですね。

おぐらとーすと: 2009年12月23日 09:51

すばらしいお友達に恵まれた神野さん。
それは,神野さんがステキな人だからですね。
何ものにも換えがたい,手に入れたくても,そうそう簡単には
手に入れられない,財産ですね。
心にぐっとくる,温かいお話をありがとうございました。

わこ: 2010年1月 3日 14:04

毎回楽しみに読ませてもらってます。涙なしでは読めません。ラジオからの三枝ちゃんからは、想像出来ないのが本音です。お母様にも頭が下がる思いです。不況の中、何時も三枝ちゃんに勇気を頂いてます。何時も楽しい放送と、オピリーナに有り難う!そして三枝ちゃんに感謝!!お体大切に頑張ってね。

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