神野三枝 タレント
~お知らせ~ 「何度も何度も読みました。そして胸が苦しくなり、涙が止まりませんでした」「私にとって人生の教科書」・・・08年3月から3年にわたり連載、多くの反響を呼んだ神野三枝さんのコラム『礼状』に、新たに書き下ろしの文章を加えた自叙伝『母への礼状』が発売されました。 お問い合わせは風媒社(052-331-0008)まで。 http://www.fubaisha.com/

第19回 『23年8ヶ月』

20091005jinno_01.gif  そうとなったら、ボーッとしている暇はありません。

 何事も、思い立ったら、即行動の母。

 あまりにも速いので、時には私が「もっと、よく考えてから行動したら!」と、心配になるほどです。しかし、母は、いつも言います。

 「遅い事なら、誰でも出来る。
 今すぐ動かないのは、自分の人生を放棄しているのと一緒。
 いい?人生の長さは決まっているの。
 一つ物事を遅らせたら、他も全部ズレて、全部先送りの人生になってしまうの。
 最期(さいご)になって、慌てて、ああ時間が足りなかった~って後悔しても、後の祭。そんなの、自分に申し訳ないでしょ!」

 『今すぐ動かないのは、自分の人生を放棄しているのと一緒!』

 せっかちな母らしい、考え方です。

 それにしても、母には、やらなくてはいけない事が、多すぎました。

 店を閉める。その残務処理。
 長年お世話になったお客様の皆様、共に店を支えて下さった仕立て屋さんを始め、協力会社の方々の元へ出向いて、事情の説明と長年のお礼。
 役場、税務署、所官庁、組合、父が所属していたクラブなどへの、届け出。
 銀行関係。
 従業員さんの今後の事。などなど、ここには書ききれない、膨大な量の仕事がありました。

 そして、何よりの重労働は、家をカラにする事。
 とにかく、早く家を売って、そのお金で、借入金の返済をしなければなりません。

 一時(いっとき)は、住み込みの従業員さんまで合わせて、10人以上が住んでいた3階建ての、店舗付きビルです。
 今の段階では、次に移るところが、何処かは分からないにしても、お金が無いので、『一間のアパート暮らし』、これだけは、選択の余地無く、決まっている事。
 となると、このコンクリートのビルの中にある、ほとんどの物を処分しなくてはなりません。

 それより先に、不動産屋さんへ、この家を買ってもらわなくてはいけません。
 新しく済むアパートも探さなくてはいけません。

 ああ~やる事だらけです。ところが、母はパニックになるどころか、ものすごくパワフルに即、行動を開始したのでした。

 「ね~お母さん、こういう時って、普通、途方に暮れるものじゃないの...?」

 私の質問に、母は答えました。

 「何暗い事言っているの!
 私たちには、新しい未来が待っているのよ!

 母さんは、ここに嫁いで来て、23年8ヶ月、一度も手を抜こうなんて思った事は無かった。必死で、真面目に商売をしてきたの。

 だから、店を畳む事になっても、後悔なんて一つも無い。
 だって精一杯やってきた結果なんだから、誰に笑われる事があるって言うの?
 笑いたい人には、笑わせておけばいい。

 それより、これから先をどう生きるかが、大事。

 母さんは、もう、自分の人生は、この息の詰まる世界で一生が終わってしまうのかしら?と、ずっとやり切れない気持ちで生きて来た。
 それが、今、ここから抜け出せる事になって、本当に言葉に表せない程、嬉しいの。
 あ~私の人生は捨てたもんじゃない。まだまだこれからよ!ってね」

 人は考え方一つで、不幸を幸福に変える事ができるのです。
 何処までも、前向きな人です。

 さて、行動し始めた母に、困った問題が次々と発生しました。
 というのも、何をするのにも、代表取締役でない母では、手続きが出来ないのです。
 何処へ行っても、「代表取締役、ご本人の方でないと書類は受け取れません」と言われてしまうのです。
 すべてにおいて、父に代わって手続きをするには、『委任状』が必要なのです。

 そこで、母は父の所へ行き、委任状を書いて貰う事になったのです。

 そこには、父と母、二人だけ...。

 やあ、元気?というのも変であるし、言葉が見つからない二人。
 沈黙...。
 夫婦であるのに、他人以上に交わす言葉に戸惑う状況です。

 すると、父が、いきなり、床に土下座をしたそうです。

 「えっ?」

 父は、床に両手をついて、深々と頭を下げたのです。

 「申し訳なかった。
 これまで、本当に申し訳なかった。
 すべては、自分の甘さが、招いた事。
 お前には、さんざん苦労させて、本当に、申し訳なかった」

 額を床に擦(こすり)り付ける父の姿は、母の目に、この人と生きてきた年月の中で、初めて心の底から詫びて貰った、と映ったようです。

 母は、何枚もの委任状を書いて貰い、そして、離婚届を出しました。
 この時、父はもう覚悟の上の事だったのでしょう。
 表向きには、ためらう事も無く、署名をしたそうです。

 そして、車で帰る母に、父は言いました。
 「本屋さんに行きたいから、乗せて行って欲しい」

 車が本屋に着くと、父は、

 「ありがとう。それじゃあ...」

 と言って、降りて行きました...。

 これが、23年8ヶ月、連れ添った、私の父と母の物語の、最後です。

 母は、バックミラーに映る、父の後ろ姿を、見ていました。
 離れて行く父。本屋に入り、姿が消えた父。
 母はこの時の心情を、今、初めて私に、告白してくれました。

 「バックミラーの中の、あの人の後ろ姿が、どんどん離れて行ってね...。
 本屋さんに入った瞬間だわ...。
 何とも言えない、こんな気持ちは生まれて初めて、という、胸の底からスーッと、何十年も痞えて(つかえて)いた物が、体から抜けて行くような感覚が、体中に感じられたの。
 ああ~これで、終わった...。
 私の、23年8ヶ月は、終わった、ってね。
 ああいう感覚は、後にも、先にもないわね~」
 さて、委任状を手に、次々手続きをし、家も売れる事になり、商売の残務整理に明け暮れる母でしたが、こんなことばかりに時間を費やしていては、収入が無い訳ですから、すぐに持ち金に手詰まりが来て、食べていけなくなる事を考えました。  働かねば...!

 自分に出来る、仕事、仕事、仕事ねぇ。。。
 「そうだ!これしかない!
 私には、武器がある!」
 こうして、思い立ったら、即行動の母は、この残務処理に追われる中、またしても行動し、新しい仕事を決めてきたのでありました...。

 その仕事とは...?
神野三枝 プロフィール
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コメント

奇跡の復活: 2009年10月 5日 11:28

前向きな生き方には共感を覚えます。どんなに辛く、悲しくても、そこを乗り越えれば、次は楽しいことが待っているかも。きっちりとした経過を過ごせた人は、どんな結果に対しても、動じることはありませんね。結果の積み重ねが次へのプロセスとなるんですね。

赤い皇帝: 2009年10月 5日 14:37

お母さんの”遅いことなら誰でもできる”と言われたことについて、神野さんは心配されているようですが、お母さんは”ここで止まっていても私たちは進まなくてはいけない。”から即行動されたと思います。(書かれているように未来があるんですから)
お母さんの”男の強さ”と”女のしなやかさ”を持った性格に感服しました。
そして、お父さん(旦那さん)と別れるときの光景に感動すら覚えた27歳の野郎です。

三好のてるくん: 2009年10月 5日 20:12

お母さんの気持、よ~く解ります(^_-)
そうなんですよね、肩の荷が下りて次に向かった時は、とんでもないパワーが出るんですよね
スケールは、かなり小さいですが、
僕は居酒屋を潰しました、離婚しました、そして今・・・・
パワーが出る事がわかってますから、自信を持って行動してます
そして、このお母さんの言葉が、とても励みになりました、
ありがとうございましたm(__)m

トトロの木: 2009年10月 6日 06:14

私の母は、怒っていると、いつもよりパワーが出て、仕事がはかどると言っています。なにくそと思う力がパワーになっているんです。
何が力になるかは人それぞれなんですよね。
全てに前向きな神野さんのお母さんの武器とは一体何なのでしょうか。何の仕事をされるのでしょうか。

キージ: 2009年10月 6日 09:57

即行動派 自分も全く一緒です。
そばに 信頼できる人がいる時 余計に 即行動してしまうんですよね。
また 次回を 楽しみにしています。

ボルパピ: 2009年10月 6日 18:42

私自身の性格も『思い立ったらスグ!』なんですが、ただそれだけ(´・ω・`;A) 
神野さんのお母様のような強さがありません。
見習わなければ!

私は2度目の離婚をした時、ホッとして張り詰めてた糸がプツンと切れて高熱を出して数日寝込んだんです~
『寝込んでるヒマなんか無いでしょ!』ってお母様に叱られますね^^;

コラムを読ませて頂くと、力が湧いてきます。
本当にありがとうございます

PS:お母様の新しい仕事って、何でしょう
気になりますー

バード: 2009年10月 6日 19:28

こんなに大変な人生の一大事なのに、むしろイキイキして見える位にてきぱきと残務処理をされるお母様、それほど抱えていた物が重く、押しつぶされそうだったんでしょうね。きっと「やり直して人生を再生したい!」の想いの方が強かったと思います。それにしても、いくら謝ったとしても、残務整理はお父様がやるべきじゃないのかしら? しかし、それができるくらいなら、こんなことにはならなかったですね・・・。返す返すも頼りない男と人生を共にする女は苦労します(個人的な実感)

季節外れのサンタクロース: 2009年10月 8日 00:16

お母様に同感です!! 「人にどう見られたいかではなく、自分はどうありたいか」  これは私の行動基本形です。  いつの時も自分の心に素直に向き合っていきたいものです。  そのお仕事、気になりますねぇ

まいとんの旦那: 2009年10月 8日 12:53

 はじめまして。東海ラジオのリスナーです。大学生の時から東海ラジオを聞いています。
 今回のコラムですがお母さんはものすごいパワーの持ち主ですね。自分もまれに神野さんの母親のようにパワーが出ることがあるけど、そこまでの持続力はないですね。ただ、そういうときは、ものすごく追いつめられている時が多いと思います。多分、もやもやとしていたものに離婚や、店じまいという線を引いたことにより解放されたのでしょう。次回を楽しみにしています。

バンバン: 2009年10月 8日 14:14

思い立ったら即行動というお母さんの生き方素晴らしいと尊敬します。でも連れ合いとなると疲れるかもね。私も何でもプラス思考で生きていますが、夫婦だったら衝突してしまうかな。三枝さんの言動からお母さんの性格が引き継がれているような気がします。

けいちゃん: 2009年10月 8日 22:57

いつもながらパワフルなお母さんです!
「これで終わった…」という不思議なほど爽快な気持ちは、全力で人生を乗り越えてきた人にだけ感じられる感覚なのだと思います。
考え方しだいで不幸を幸福に替える!私もそんな風に人生を乗り切って行きたい!!

たっちょん: 2009年10月 9日 18:16

お母様のご苦労を思うと今の私なんて、まだまだだなと感じます。「新しい未来が待っている!」そう思うと頑張れます。
ありがとうございました。

ミルキー: 2009年10月13日 10:05

大変って思うより、これから、新しい人生に向かってみえるお母さんの思いが強いのがよくわかります。これからは私が子供達を育てていかないとっていう思いがつよくくよくよしていられなかったんでしょうね。
これから始まる新しい人生がとっても気になります。

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